



二宮: 清水さんは治療を受けながら、激しいトレーニングや度重なる海外遠征を乗り越えて第一線で活躍してきました。患者の立場から現在の喘息治療に対する要望はありますか?
清水: やはり治療はシンプルが一番なんですよね。吸入薬やのみ薬などいくつもの薬を使うような複雑な治療はとても長くはつづけられません。そして、まずはベースの部分で発作が出ないようにコントロールするという意識付けをしっかりとやっていただきたいですね。
二宮: それによって喘息が原因でスポーツを断念しなければいけない子どもたちが少なくなればいいですね。
清水: 僕も昔は医師の方から「喘息患者はスポーツをやってはいけないよ」と宣告されたんです。「スポーツをやっても絶対に大成しないよ」と。リスクを伝えざるを得ないという医師の立場もわかるのですが、僕は自分自身の体験から、吸入ステロイド薬で症状をコントロールしながら、運動を続ければ、どんな患者さんでも健常者レベルまで改善できるという確信があるんです。そういった方法をぜひ推奨していただきたい。
そして薬や治療法の情報、何より喘息のメカニズムを伝えてほしいですね。その際には専門用語を使わず、わかりやすく子どもも理解できるような表現で説明していただきたいと思います。
二宮: 永田先生はアイスホッケーをされていたとか。スポーツマンでもあり、患者でもあり、医師でもある立場から清水さんの話をどのように感じますか?
永田: 患者さんは、スポーツでも仕事でも何でも、好きなことが支障なくできるレベルになりたいと願っています。今の治療段階では、例えば吸入ステロイド薬と気管支拡張薬の配合剤がありますから、こういったものをうまく使ってコントロールすることをしっかりと伝えていくことが必要ですね。
実は最近、免疫学のフィールドで、運動をするとアレルギーや喘息を鎮静化する方向に働くリンパ球が活性化するという報告が出ています。だから、適度な運動は呼吸機能をよくするだけではなく、アレルギー反応を抑える意味でも大切かなと思いますね。
それから患者さんに対する説明についても指摘をいただいて耳が痛かったんですけど(苦笑)、言葉の使い方は大事でしょうね。「喘息は気道の炎症」と言っても難しいかもしれないので、「気道が腫れていて硬くなって、元に戻らなくなっちゃう」といった説明ができる言語センスも求められるのではないかと感じました。
二宮: 高齢化社会を迎え、医療サイドにもよりわかりやすい表現で伝えたり、コミュニケーションをとる努力が不可欠になってきていますね。
永田: そのとおりですね。患者さんは敵が何であるかわからないと戦えません。我々は喘息は「慢性的な気管の炎症」と習うわけですが、分かりやすく言えば、「気道が腫れている状態」ということになります。その腫れを抑えないと気道が狭く、硬くなる。そして発作を繰り返すと、呼吸機能の低下はどんどん進んでいきます。だから、発作自体がないような状態をつくっていくのが大切だと理解していただくことが重要でしょう。これらは一方通行ではうまくいきませんから、患者さんとの信頼関係を築くコミュニケーション能力も同時に問われていると思います。


二宮: 清水さんは、どうすれば患者さんと医師の良好なパートナーシップが築けるとお考えですか?
清水: まずは薬の選択肢を与えてほしいんです。喘息だからこれ、と決めつけるのではなく、喘息にもいろいろあります。僕自身もいろんな喘息の薬を試しました。友人には合っても、僕には合わないということはよくあります。そういった患者さん自身に合わせた薬を一緒に見つけてあげることが近道かなと感じます。
喘息と告知されてしまうと、ガンを告知されたのと同じようにとらえてしまう患者さんが少なくありません。今後、生活が制限されてしまう、外に出られない、自分が今までやってきたことができない……。どうしてもマイナス方向に考えてしまう。でも、そうではない説明の仕方があると思うんです。「喘息というのは自分の体、肺、内臓と向き合えるんだよ。そういう意識が芽生えるんだよ」。こう伝えてあげれば、自分の体に敏感になって、それまで意識できなかった空気の変化や喘息の予兆が感じられる。喘息患者って、自分の体に対する意識が高いので、どんな分野でも成功している方が多いんですよね。そういったプラスの部分を患者さんにぜひ教えてもらいたい。
二宮: 今の清水さんの話は私も共感するところがあるのですが、小さい頃、小児喘息でヒーヒーいっていたり、咳き込んでいたりすると、クラスの中で「うつるから来ないでくれ」と言われたこともあります。子ども心にはかなり傷つきました。ただ、その時に私を診てもらった先生からは、「これはチャンスだよ。喘息で学校を休んでいる間、本をいっぱい読んだらいいじゃない」と言われました。「自分の内面との対話が濃密にできるんだよ」と。それで私は物書きならできるんじゃないかと錯覚したんです(笑)。喘息をただネガティブにとらえるんじゃなくて、勇気づける一言を付け足してもらえれば、もっと治療にも前向きになれるのではないでしょうか。
永田: 僕自身も重い喘息で、治らないので医者になろうと思ったタイプです(笑)。
二宮: お年を召されてから喘息になる方もいらっしゃいます。そういう場合、自分が喘息だと自覚していない方もいらっしゃるでしょう。その点で患者会の役割も重要になるのではないでしょうか?
北島: 先程、清水さんがおっしゃったように、患者さんには喘息のメカニズムをわかっていない方もいらっしゃいます。ですから、私たちのような患者会が開催している講演会や学習会を、ぜひ、患者さんたちに紹介していただきたいですね。先生方も治療や研究で忙しくしていらっしゃいます。患者さんに対する精神的ケアや説明を行う時間はどうしても限られてしまうと思いますから、その部分は患者会の利用も選択肢として考えていただければありがたいです。
永田: 患者会は陰になり、日なたになり、頑張っていらっしゃいます。ご提案いただいたような患者さんとのネットワークをつくるのはひとつの有効な手法でしょう。


二宮: 清水さんは世界各国で戦ってきたわけですが、日本と外国で治療に対するスタンスの違いを感じることはありますか?
清水: 外国では患者と医師の距離が近いですよね。日本のスポーツ界で喘息患者と向き合って治療しながら、トレーニングや試合に向けた計画を組んでいくことになったのは僕がきっかけだったんですよね。それで国立スポーツ科学センターが調べてみると、実は各競技にたくさん喘息患者がいた。みんな喘息の自覚がなかっただけなんです。スポーツの世界を見てもこんな状況ですから、一般の方まで対象を広げればもっと多くの喘息予備軍が控えているのではないかと感じます。日本はスポーツにおいて諸外国と比べると後進国だと思いますが、医療に関してもまだまだ劣っている部分があるのではないでしょうか。
二宮: 永田先生も外国での経験から日本との違いがあれば教えてください。
永田: アメリカではアスリートの喘息についてのマネジメントや治療プログラムを毎年のように実施しています。ですからアレルギーの専門医に関しては、その点はかなりのトレーニングを受けている。だから、適格に対処しやすい面はありますね。
二宮: では、最後に改めて患者サイドからどのような治療を望むのか、北島さんよりお願いします。
北島: まずは2009年に出された喘息予防・治療ガイドラインにのっとった治療を心がけてほしいですね。そして自分で自分の症状を理解し、症状に応じたコントロールができるレベルに達するまで徹底した患者教育をしていただきたい。私は喘息で入退院を繰り返している状態から、吸入ステロイドのおかげで普通に仕事ができるところまで症状を改善させることができました。ぜひ、喘息であっても他の方と変わらない生活ができるんだという希望を患者さんに持たせていただきたいと思います。
二宮: 自分がいくら予防につとめていても、職場などの社会の喘息に対する認識が不足している面は感じませんか。
北島: 昔のイメージがすごく残っていますね。喘息になると仕事を休みがちとか、あてにならないとか……。その点は、今はきちんと治療することによって周囲と変わらない生活ができるんだと社会に強く伝えていく必要があると思います。そして、私たち患者会は皆さまのお力をおかりし、世の中の空気を変えてゆくことを使命と思っています。
二宮: では清水さんからもどうぞ。
清水: 患者さんへの対応を決してマニュアル化しないでほしいんです。患者さんはそれぞれ環境や生活環境によって症状は異なります。発作が起こるタイミングも違うかもしれません。そういった状況に合わせて患者と向き合ってほしいなと思います。そして、喘息は長く付き合わなくてはいけない病気なので、薬と患者を近い距離にしてほしいですね。薬はどうしても見えないところへしまう習慣があるので、たとえば常にベッドの横に置いておくとか、日常的に治療が続けられるような指導を心がけてほしいです。
二宮: そのあたりも細かく医師から指示を与えてもらいたいと?
清水: 喘息の“若葉マーク”の方々は、まず習慣ができていないですし、何よりも吸入薬の吸い方を知らないんです。そこから教えてあげるくらいでないと、患者さんはついていけません。僕自身も他の患者さんから「どうやって吸うの?」って聞かれたことがあるんです。「簡単だよ。吸うだけだよ」って言っても、実際には強く吸わないと薬が入ってこない。そういった患者のためにブシュッと薬が出やすいものを開発するといった工夫も求められているかもしれません。ひとつひとつ説明するのは面倒臭いと思いますが、そこは患者さんの視点に立って、薬の吸引法のマニュアルがあると助かりますよね。
もうひとつ、繰り返しになりますが、正しい治療のためにもメカニズムを理解してもらうことが大切です。患者の中には咳が出るので喉の炎症だと勘違いしている人も少なくない。実際には肺の炎症なのですから、「肺の奥まで薬が入っていくイメージで吸ってください」と伝えるだけでも全然違いますよね。そういうコミュニケーションが大事だと思うんです。
二宮: それでは永田先生、最後にまとめを。

永田: 喘息は究極的には根絶できる治療が確立されればいいのですが、現時点では多くの患者さんがきちんと症状をコントロールし、不自由なく好きなことができる状態をつくるのがひとつのゴールになります。清水さんが指摘された薬の使い方は確かに重要なポイントで、中には逆向きに吸っている患者さんもいるんです。今は、高齢の患者さんやお子さんにも吸いやすい形の吸入薬もあります。医師の立場としては喘息の正しいメカニズム、適切な治療法をしっかりと説明して、患者さん、そして患者会と協力しながら、苦しんでいる方々が少しでも減るように力を尽くしていきたいと考えています。
※この対談は2011年1月23日に東京都内で開催された「ASTHMA PRIMARY CARE SYMPOSIUM2011」の内容を元に構成したものです。



