



二宮: 私は3歳で喘息にかかって、以来45年、この病気と付き合っています。ところが、喘息に対する知識がほとんどなかった。発作になると吸入器でシュッとやる程度の対症療法しかしてこなかったんです。ところが昨年、このサイトでスピードスケートの清水宏保選手と対談をした際に「発作を出さない治療法」を知り、かなり症状が緩和されました。
いろいろ調べてみると、清水選手のみならずスポーツ選手や各界の著名人の中には喘息を克服して活躍されている方が多い。そこで、喘息経験やかかわりのあるみなさんをこのコーナーにお招きして、喘息をいかに乗り越えるかというテーマでお話をお伺いしたいと考えています。
まず、コーナーのスタートにあたって東京慈恵会医科大学の勝沼俊雄先生より、喘息の基礎知識をレクチャーしていただければと思います。よろしくお願いします。
勝沼: まず、二宮さんは3歳で発症したと言われましたが、まさにその年齢が喘息が出てくる一番ピークなんです。いわゆる小児ぜんそくの80%は3歳までに発症するといわれています。
二宮: 喘息の原因は解明されているのでしょうか?
勝沼: まだ100%、正確にはわかっていません。ただ、遺伝的要因と環境的要因の2つがあると言われています。まず、お父さんやお母さんが喘息の症状をお持ちだと、その子どもが発症する確率は高まります。もうひとつはアレルギーによるもの。たとえば3歳以前に食物アレルギーやアトピー性皮膚炎があったりすると喘息にかかる確率が高まってくるんです。
二宮: 私の両親は喘息ではないのですが、父親がヘビースモーカーで、子供の頃の写真を見ると、いつも私を抱いてオヤジがタバコをくわえている。それが悪かったのかなと思っていました。よくよく思い出してみると、アトピーの症状もありましたね。湿疹がかゆくなってかきむしるので、手に包帯を巻いていた記憶があります。


勝沼: 子ども時代の症状はどのような具合だったのでしょうか?
二宮: 私の場合は結構、重かったですね。普通はゼーゼーと音が出るのですが、私はヒューヒューと窓から強風が吹き抜けるような音が出るんです。気道が狭くなって本当に苦しい。
当時は「寝たらおさまります」などと言われましたが、寝ようにも寝られないんです。夜がくるのが怖かった。乾布摩擦や体質改善とかいろいろ試してはみたんですが、結局、改善策は見いだせなかった。
勝沼: 喘息の“喘”は“あえぐ”という意味ですから、まさに「ゼーゼー、ヒーヒー」と息苦しくなるのが、この病気の特徴です。二宮さんがおっしゃっていた「ヒューヒュー高い音」が出るのは、症状が重いことを表しています。笛と一緒で、空気の通りが悪いと高い音が出ますから、それだけ気管支が狭くなっていたというわけです。
もうひとつ、発作は日中よりも明け方に起きやすい。だから「夜が怖い」という気持ちはよくわかります。寝ると肺が圧迫されますから、立っているほうが少し楽なんですよね。
二宮: その通りです。季節によっても症状が違って、ちょうど夏が終わって秋に入る頃が一番ひどかった。2学期が始まって、ちょうど運動会シーズンです。運動会に出られないなど嫌な思い出ばかりでした。
勝沼: 最も発作がおきやすい季節ですね。今では風邪が発作を起こす最大の要因ではないかとも言われています。喘息の方は、ただでさえ気道が炎症を起こして過敏になっていますから、季節の変わり目に風邪のウイルスが入ってくると、それが発作の引き金になりやすい。
ただ現在の医療では、対症療法的に鼻水を止めたりせきを楽にしたりする風邪薬がありますが、ウイルスを完全に撃退するものはありません。ですから喘息の予防も、今は気管支の炎症を抑えることに主眼を置いています。風邪ウイルスのような刺激を受けても過敏に反応しないようにしておくことが大切なのです。


二宮: 私は冒頭でもお話したように、発作が起きると吸入器を使っていたのですが、しばらくするとまた発作が出てくる。そうではなくて、事前に炎症を抑えておくと?
勝沼: これまでの喘息治療とはイコール発作を抑えること。ですから、一時的には良くなっても発作が繰り返し起こります。対症療法ばかりやっていると逆に炎症がひどくなって、リスクを高める可能性がある。 喘息は、いろいろな要因で気管支が狭くなって発作が起こる病気です。ですから、その炎症をいかに抑えるかという治療法に変わってきました。二宮さんも炎症を抑える治療を根気よく続けていけば、発作を止める薬のお世話にならなくても喘息をコントロールできるようになると思います。
二宮: 現在、日本ではどのくらい患者さんがいらっしゃるんですか?
勝沼: 国民の約5%、およそ600万人の患者さんがいらっしゃるといわれています。そのうち小児ぜんそくの患者さんは概算で100万人です。
二宮: これは諸外国と比べた場合、比率は高いのでしょうか。
勝沼: 日本はちょうど平均あたりですね。国民の10%、15%が喘息という国もありますし、逆にほとんど患者がいないような国もあります。
環境の悪さと喘息の発症率が比例するかというと、そうではない。たとえば旧西ドイツと旧東ドイツを比べると、旧東ドイツの方が大気汚染はひどかった。ところが喘息は西ドイツに多かったんです。10年ほど前には、アレルギーの調査で中国に行ったことがありましたが、ほとんど喘息患者はいませんでした。
確かに大気汚染は重要なファクターのひとつですが、喘息を引き起こす大きなファクターはアレルギー。生活レベルの向上に伴って住環境が改善し、部屋が密閉構造になってホコリがたまるため、アレルギーを起こしやすいと言われています。
さらに上下水道が完備されたことでバイ菌が少なくなりましたね。必然的にバイ菌に対する免疫が減り、アレルギーにも対する抵抗力が低下したとの見方もあります。喘息は昔からある病気ですが、そういった生活水準の向上が皮肉にも未だに患者が減らない原因なのかもしれません。


二宮: 最近は喘息に対する理解も進んできましたが、私の子どもの頃は喘息に対する偏見がひどかった。「喘息なんて根性がないからだ」とか、「喘息は人にうつるんだ」とかいろいろ言われました。随分傷つきましたよ。
通信簿ではいつも協調性は「C」の評価。たとえば体育の当番でマットを出したり、修学旅行先の旅館で布団をひいたりすると、そのホコリで発作が出る。それで「集団行動ができない」と判断されたみたいです。
勝沼: 今では喘息の症状もだいぶコントロールできるようになりましたが、「学校や幼稚園、保育園の生活は快適ですか」とアンケートをとると、まだ約25%の人たちが「非常に問題がある」という回答を出されています。
まだまだ予防法を駆使しても、うまくコントロールしきれない重症の小児患者さんがいらっしゃるのが実状です。偏見はなくなってきたとはいえ、集団生活の中で誤解されることも多いと聞きます。「無理してやったら、できるんじゃないか」という無理解がなくなっているわけではありません。
二宮: スケートで金メダルを獲得した清水選手は呼吸が苦しい分、心肺のコントロールができるようになったと語っていました。まさに「禍転じて福となす」。喘息の苦しみはよくわかりますから、それを乗り越えて世界の頂点に立つというのは本当に考えられないこと。彼のような存在は、私から見るとまさに「喘息の星」です。
勝沼: 一般的に喘息患者の方は肺活量が低い。肺機能が低下しているなかで激しい動きをするとなると、それだけで大きなハンディキャップとなります。
僕の患者さんでも剣道で日本一になった選手がいました。喘息でも他の子どもたちと同じように、好きなスポーツに出会って自分の秘めた力を開花させることは充分、可能です。昔は喘息児の精神を鍛えるためにスポーツを勧めることが多かったのですが、今ではいろんなスポーツを楽しくやろうという方向に変わりつつあります。
二宮: スポーツとは本来、鍛錬ではなく楽しむものですからね。普通の人と同じように暮らせる喘息のない生活、これが私たち患者にとっては理想です。今後、さまざまゲストをお招きする中で、喘息に対する理解をみなさんとともに深め、正しい知識を学んでいきたいと思います。

